先日、母乳育児の第一人者として知られる著名な小児科医の先生の講義を拝聴する機会がありました。
その中で、とても心に残る言葉がありました。
「モロー反射は赤ちゃんの不安の表れ。乳房は、赤ちゃんにとって“失った世界”への架け橋である。」
この一言に、私は思わずハッとさせられ、胸が熱くなりました。
母乳育児というと、「栄養が豊富」「免疫力がつく」など、どうしても体の健康面でのメリットがクローズアップされがちです。
もちろん、それもとても大切なこと。さらに、最近では「愛着形成」や「産後のホルモンバランス」など、心理的・身体的な影響も注目されるようになってきました。
でも、「乳房は、赤ちゃんにとって“失った世界”への架け橋」という言葉には、
それ以上の、いのちの根源にふれるような深さがあると感じたのです。
👶赤ちゃんが生まれたとき、失うもの
お腹の中にいた赤ちゃんは、羊水に包まれ、常にお母さんとつながって生きてきました。
音も、光も、温度もすべてが一定で、外からの刺激も少なく、絶対的な安心の中にいました。
けれど、出産と同時にその世界は突然終わりを迎えます。
空気を吸い、重力を感じ、眩しい光や音にさらされ、つながっていたへその緒も切られてしまう。
赤ちゃんにとってそれは、まさに「世界を失う」体験。
🫶モロー反射と赤ちゃんの不安
その証のように、生まれたばかりの赤ちゃんはちょっとした刺激で
手足をびくっと広げる「モロー反射」を見せます。
まるで「誰か、つかまらせて」「安心したい」と言っているかのような動き。
それは、生まれた瞬間から感じている不安やさみしさの表れなのかもしれません。
🤱乳房は、赤ちゃんをつなぎなおす“架け橋”
そんな赤ちゃんにとって、
お母さんの腕に抱かれること、
乳房に吸いつくこと、
肌と肌がふれあうこと――
それは、「あなたはひとりじゃないよ」「大丈夫だよ」と伝える、
この世界との“再接続”の時間です。
乳房は、赤ちゃんにとって
「失った世界」と「これから生きていく世界」とをつなぐ、
あたたかくてやさしい架け橋なのです。
💬母乳育児の意味は、もっと深い
だからこそ、母乳育児は、ただの「食事」や「栄養補給」ではありません。
それは、赤ちゃんの心を支え、安心と信頼を育む営みです。
そして、ママ自身が「自分はこの子の力になれている」と感じられる、かけがえのない時間でもあります。
もし今、授乳がうまくいかなくて悩んでいるママがいたら、
「ちゃんと飲めていないかも」「足りていないかも」と思いすぎず、
まずはただ、赤ちゃんを抱きしめて、胸にそっと顔をあててあげてください。
そのぬくもりこそが、赤ちゃんにとっての“架け橋”になるのです。
💬母乳育児がつらく感じるときも
赤ちゃんが吸ってくれない、
母乳が足りていない気がする、
搾乳ばかりで心が折れそう…。
そんなふうに感じている方も、たくさんいます。
そして、そんな気持ちになるのは、あなたが赤ちゃんのことを本当に大切に思っている証拠です。
🌷完全母乳じゃなくても、大丈夫です
母乳育児という言葉に、「全部母乳じゃないといけない」と感じていませんか?
でも、そんなことはありません。
・ミルクと併用してもOK
・1日に1回だけでもOK
・吸わせてみようと思っただけでもOK
母乳育児は「量」や「回数」で決まるものではなく、
赤ちゃんとママが“ふれあう時間”の中で、心が通い合うことこそが大切なんです。
🤱あなたの「少し」が、赤ちゃんの「たくさん」になる
ちょっと抱きしめた
ちょっと触れた
ちょっと目が合った
ちょっと飲めた
その「ちょっと」の積み重ねが、
赤ちゃんにとっては「安心」「信頼」「愛情」を育てる、大きな栄養になります。
🤱助産師より、母乳育児を頑張っているみなさまへ
母乳育児は、みなさまにとってかけがえのない宝物です。
ときには大変なこともあるかと思いますが、どうかひとりで抱え込まないでくださいね。
助産師はいつでも、みなさまのそばで応援しています。
どうぞ、ご自身のペースでゆっくり歩んでいってください。